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7/19開催Beyond 2050プロローグ第5節~京都大学が描く未来の食と農~

いま日本の農業は高齢化や人手不足、耕作放棄地の増加、TPP による輸入品との価格競争など深刻な課題に直面しており、スマート農業、循環型農業、農作物の高付加価値化などさまざまな対策が講じられています。さらに食と農の持続可能性を真に追求するには、消費者も巻き込み、社会全体で課題解決に取り組む必要があります。最新の動向を踏まえて、地球社会のなかの農業の位置づけを明らかにし、食と農の未来を考えます。 👉チラシ.pdf

日時
2024年7月19日(金)13:30~16:30

録画上映会7月25日(木)18:00-19:30 

会場
当日 京都経済センターKOIN(京都市下京区)

録画上映会 本学東京オフィス(東京都千代田区)

  
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申込者数
141名(うち、録画上映会16名)
参加総数
111名(うち、当日89名 録画上映会13名 関係者9名)

パネリスト

「農業機械と農業技術は何を目指すのか?」
農学研究科 教授 野口 良造

歴史的に見て人類は空腹との闘いでした。しかし今では、若い世代を中心に「何を食べるのか?」、「その食べ物をどのようにつくるのか?」が強く問われています。一方で、日本には世界中の人たちが羨望する農産物があり、その生産技術、農業空間があることから、これらをどのように維持、発展させるかが日本の農業に求められています。そこで、これらを解決するための農業分野における最新の生産技術の事例紹介を通じて、生命・生物資源循環の視点、Alvin Tofflerが提唱するProsumersに立脚した新たな農業機械、農業技術についてお話しします。

フードシステムはどのように維持されるのか、変容するのか
  ~事業者と消費者の判断・行動から考える~

農学研究科 講師 鬼頭 弥生

価格競争や大手小売店のバイイングパワー、生産・流通に伴う環境負荷など、フードシステムの持続可能性を脅かす問題が噴出し、対応に迫られています。そこでは、生産から消費までの各主体が、自らの経済的・社会的持続可能性だけでなく他者や環境を考慮する向社会性をもつことに加え、要素間のトレードオフが生じる可能性を理解し共有することが不可欠と考えられます。本講演では、主に認知科学の観点から、フードシステムの川下の事業者と消費者の判断と行動、規範のコンフリクトをとらえ直し、未来に向けた可能性と課題を考えます。

「来るべき給食のために——歴史学からのアプローチ
人文科学研究所 准教授 藤原 辰史

1889年に始まった日本の学校給食は子どもを飢餓から救い、災害時には炊き出しの拠点となってきました。また、敗戦後GHQ占領下に再開する給食は、教師と子どもの交流を深めたり、給食を通じて社会や自然を学んだりするという意図が加えられます。現在、給食は、若手有機農家を育て地域の活性化、自給率上昇につなげたり、子どもの栄養改善を助けたりと可能性が広がる反面、民営化、センター化などの合理化政策によって質が低下する問題が多発しています。拙著『給食の歴史』の議論を踏まえつつ、未来の食と農を給食から考えてみたいと思います。

ファシリテーター →動画

農学研究科 
教授 近藤 直

コメンテーター

株式会社パソナグループ 
エキスパート役員 塩谷愛 様

参加者アンケートより

自由意見

現在の課題、問題提起は理解できたが、2050年に向けて思い切ったアイデア、提言などバックキャスティング的な視点が欲しかった。
パネルディスカッションも素晴らしかったが、もっとパネラーと参加者を対等に置けるようなイベントもあるとよい。
文系理系の分散具合も素晴らしかった!資料なし、撮影録画なしのイベントは緊張感がある(昔は当たり前だったと改めて)。
欲を言えば、話題のつながりや統一感がやや薄かったようにも感じた。ご講演に事務局が少しバイアスを掛けてコントロールするだけでも議論がグッと深まるように思う。今後も楽しみ。

質疑応答

Q1 需給率からみれば、農産品の海外とのサプライチェーンをもっともっと強固にする必要があると考えます。Beyond2050でのとっておきの「策」はあるのでしょうか?
A.海外の農地は、やはりその国の方々がまず有効に使うべきだと考えます。そのうえで、農作物の安定的な入手が可能なように、海外とのサプライチェーンを強固にするのが良いのではないでしょうか?
Q2 これほど気候が温暖となり異常気象が続くことに対して、品種の改良や、気象に影響されない工場での農業のようなことを考える必要があるのではないでしょうか。
A.施設園芸や植物工場であれば、気候の変化と無関係に農産物を生産できます。ただし、かなりのエネルギーが必要になります。そのため、ある程度は、気候変動を受け止めて、農業も変化していくことも重要かもしれません。
Q3 農業や食料の先端技術の開発は、社会の構造や歴史を考慮したうえで、「このような技術がほしい」と構想されてから成り立つものでしょうか?技術開発が一般社会の想像を超えて社会の在り方を変革するのでしょうか?後者の場合、科学者や開発者が肝に銘じるべきことはどのようなことだと考えますか?
A.農業機械発展の歴史を見ると、内燃機関・コンピュータ・AI・ネットワークなど既に実用化されている技術が農業機械へ応用され進化した例が多々あります。しかし、自動化した農業機械の操縦席で、手元のスマホで農業ゲームをしている、といったこともあるように、開発の視点は、辛い農作業からの解放がまず重要ですが、今後は、作る楽しみを味わえるような視点が必要になってくると思われます。一方で、農業機械に限らず、世の中の技術はますます高度になり、それを使う技術者の責任はますます重要になってきています。それらの技術者をどのように育てていけば良いのかを考えることも必要です。
Q4 今後日本の農業機械の技術はどこまで進むのか?現在注目している分野はありますか?
A.農業機械に限らず技術の発展の限界はありません。食料生産に関わる様々な技術は、その地域や農業の影響を強く受け、将来性も高いので、興味深いところです。
Q5 家庭菜園実践者は工業化した社会で、あえて土を触れる、自分の手を使うことに喜びを感じているようにも思います。こうした人々にも機械導入の広がりの可能性を見られますか?
A.世の中は、過去の不便さに戻ることはないと考えています。ファッションが繰り返される側面があるにせよ、服の素材や着心地が変わっていくように、技術も向上しています。自分で土を耕して農産物を育てるのは、はたから見れば手間に映りますが、本人は喜びを感じています。これはスポーツとも似ているところがあり、センサーや計測装置、服や靴の素材や作りが高度化して、ますます上達のスピードが向上し、使いやすくなっているように、農作業においても、機械だけでなく、道具(ツール)がより発展し、素人の参入が進むものと考えます。
Q6 大規模農業と小規模有機農業が対比されていますが、どちらかがどちらに寄せていくにはどういったことが必要になると考えられますか?
A.農業生産には、安定した食料の確保と、美味しいこだわりのある農産物の生産が求められます。これらを両立させるためには、どうしても効率的な大規模農業と、味にこだわった小規模有機農業の二つの側面が不可欠と考えます。
Q7 今後2050年に向けて、現実的で理想的な日本の食料自給率のゴール、またはその考え方があれば教えてください。長年改善されてこなかった背景を含めて今後の指針にしたいと思います
A.食料自給率がなかなか増えないは、政治的な背景があると考えます。そのなかで、自国の農業を活性化し、安定的な食料生産を確保することは、国を強くするうえで重要な政策と考えます。食料自給率の向上は、エネルギーや資源の自給率の向上を行うことと同じ路線で考えるべきと思います。
Q8 若い人が農業をしたくなるように、戸建ての家が手に入る、服装が自由、などと農業がリッチでお洒落だとマスコミを利用して誘導する事は可能でしょうか。
A.若い人が田舎に住んで農業を始めるケースも良く聞きますが、あきらめる人も多いと聞きます。宅地に小農園を織り交ぜたような設計に変えていけば、家庭菜園がやり易くなるかもしれません。インフラさえ整備できればかなりのことができます。国策として行い、その結果、「誰でも農業」が普及していけばと考えます。マスコミも重要ですが、農業はある程度、息の長い取り組みが必要と考えます。
Q9 どうして生産消費者を推すのでしょうか?具体的にお願いします。
A.世の中にはおいしいレストランは多々ありますが、自分で育てて作った農産物の美味しさは、新鮮さとあいまって、かけがえのないものがあります。年を重ねるとさらに美味しいものを食べたくなり、そのために家庭菜園をしている方も多いようにも見えます。

主催:京都大学成長戦略本部京都大学人と社会の未来研究院
共催:京都大学大学院人間・環境学研究科学術越境センター
   京都大学学際融合教育研究推進センター